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Joy Job
 作:¥=$



一店目 パン屋さん



「やっぱり、まだ堅いよ」
パン屋の裏側、パン工房で、職人たちがケーキを食べて何か話している。
「ケーキのスポンジは、弾力があっても抵抗なく噛み切れる柔らかさが必要なんだ。こんなに堅かったら、口のなかにスポンジが残って、クリームと混じらない。食べにくいよ」
そのケーキをつくった職人は、苦い顔でうなっている。
「……また、失敗か…………」
どうも何度も失敗しているらしい。テーブルの上に食べ残されたケーキを、一人で食っている。
「しかし困ったな。今度のTSサービス解禁で女の子が増えるだろうから、そこを狙ってうちの店でも甘食を出そうとしたけど……俺たちは本業のパンをつくらないといけないし……」
「お前がいったんだぞ、新入り。一番ヒマな俺がケーキつくりますって」
「しかたない。今回はもうあきらめるか。第一、女の子が増えるからって、みんな甘いもの好きとは限らないし、好きとしても、うちより本職のケーキ屋に行くんじゃないか?」
先輩職人たちは、もうあきらめ顔だが、新入りにとってはそうはいかない。数少ない、自分の腕が披露できるチャンスだ。どうしてもケーキフェアをやりたい。自信はある。自分の舌は一級品だ。ただ甘いだけじゃない、本当においしいクリームがつくれる。先輩たちもそれは認めた。
……しかし、スポンジがつくれない。味のほうがよくても、柔らかいスポンジじゃなきゃ、うまさ半分だ。
 落ち込んでいる新入りに向かって、先輩職人が声をかける。
「パンをつくる時にも言ったが、焼成っていうのは勘だけじゃどうにもならない。きっちり時間を量ってやるものなんだ。季節や食材を考慮しながら、その時その時にあわせて、焼きを工夫する。それができるのは経験だけだ。お前はまだ若い。もっと時間をかけないと……」
「そうそう、第一お前はパンの発酵も下手なんだよ。ビスケットみたいなパンをつくったときにゃ、本気で追い出そうとしたぜ」
「ま、とにかくスポンジをつくるんなら、小麦粉や卵の微調節ってだけだろ。まだなんとかなる。あきらめずに続けろや」
なぐさめと叱咤、そしてアドバイスは何度も受けた。それでも、柔らかいスポンジはつくれない。新入りはあせっていた。
「どうしたの? みんな」
「「「あ! 店長」」」
ふくよかな腰に、豊かな乳房、ウェーブのかかった髪、紅い唇が魅力的な女性。この人が店長である。
「なにしてるの?」
「いえ、実はこいつのケーキ、まだスポンジが柔らかくつくれないんです」
「ふ〜ん……」
新入りは店長から目をそらしていた。フリーターやってた自分を拾ってくれたのに、おとなしく修行せず、でしゃばって失敗ばかりしている。情けなくてあわせる顔がない。
しかし、店長はそんな新入りを応援していた。ただ上からの指示に従うだけじゃ成長はない。未熟ながらも自分の料理をつくろうとする新入りは、自分の若い頃に似ている。そう思っていた・・・・・・



その日、掃除も終わって帰ろうとする新入りに、店長は自分が焼いたケーキを渡した。
「どれだけ参考になるかわからないけど、試してみて」
新入りは嬉しかった。うちの店は、予約がなければケーキは焼かない。そして、今日は予約が入ってなかった。店長が自分のような新入りのために、わざわざ自分の焼いたケーキを渡してくれた。ワンホールのケーキを大事に抱えて持って帰った。



自分の部屋に入り、さっそくケーキを味わってみる。

フワッ…!

おいしい……
噛むとスポンジが泡のようにとろけ、クリームと混ざり合って、口の中全体に甘味があふれる。さすが店長のケーキだ。今まで研究のため、有名店のケーキを食べたが、いささかも劣っていない。
もう一口、もう一口と際限なく食べられる。ワンホールのケーキはまたたく間に、半分が食べられた。
食べる度に、まるで子供の頃想像した、わた飴でできた雲のような感触が味わえる。フワフワ……フワフワ……と。
そんな感触が全身を包む。

フワフワ……フワフワ……フワフワ……フワフワ……フワフワ……フワフワ……ふにゃ…………

ふにゃ? 妙な感触で我にかえった。口の中だけで感じるはずだった、心地好い柔らかさが全身で感じられる。
見下ろすと、白い塊が視界をさえぎる。二つの塊でできた深い谷間が、魅惑的に存在を主張する。手で確認してみる。塊は柔らかくも適度な弾力を持ち、指先が触れるだけでプルプルと震えた。指がどこまでもめり込んでいく。つかんで引き離そうとしたが、引き離すことはできなかった。それは自分の体から生えたものだった。
シャツを脱ぐと、雪のように白く眩い乳房が姿を現した。手のひらで包んでもはみ出す大きな乳房は、店長がつくってくれたケーキと同じ柔らかさだった。ズボンもパンツも脱いでみる。そこには男の印はなく、なだらかな双球の尻と、すらりと伸びた白い足、そして早瀬の玄芝だけがあった。
新入りはその体をすみまで確かめた。色、形、艶、そして柔らかさ。その玉髄の美しさを味わい尽くした・・・・・・



「おお……! 今度のケーキはうまいな」
あれから一週間たって、ついに新入りはケーキを完成させた。
雲のように柔らかいスポンジは口の中でとろけ、クリームと混じり合い、舌の上に極上の音楽を奏でる。
「これならお客さんに自信をもって薦められる。よくがんばったな」
店長と並んで立っている新入りに向かって、称賛の言葉を投げ掛ける。
新入りはあの日以来、その胸に大きく柔らかい特上の乳房を抱えたままだった。調理の邪魔にならないように、髪は短く切り揃え、化粧もしていないが、もう女としての心構えをしている。その大きな乳房を恥じることはない。

「よかったわね。おいしいケーキがつくれて……」
「ハイ」
店長もあのケーキを食べて女になったんだろう。直接は聞いていないが、半ば確信している。でなければ、あんなケーキがつくれるとは思えない。
半分残っているワンホールケーキは、今も冷凍庫の中で保存している。いつか原材料をつきとめ、自分の店で出したいと思う。遥かな夢に、また胸がふくらんだ・・・・・・



明日湖県名所案内:『Bakery To―Ko』明日湖県木辺市福楽水(ふくらみ)町3―1―35。学生や会社員が多く集うパン屋。ケーキもつくっているが、予約が必要。人気メニューはメンチカツサンド、三色パン。営業時間 AM06:00〜PM18:00。定休日 第2、第4日曜日



「ところで先輩。俺が女になっても何も言いませんね?」
「当り前だろ」
「ここは明日湖県」
「トランスなんて、どこにでもある……ワよ」







後書き
 勢いだけで書いてみようと思って、一日で書いてみました。と言ってもアイディア自体は前からありましたから、グータラな自分に喝を入れただけかも。
 この話は前に掲示板に書いた、TS職業シリーズの一発目で、おっぱいの柔らかさをパン生地に例えるってのがあったので、それをいろいろしたらこうなりました。
 この他に中華屋、本屋、花屋、工事現場などを考えています。あと前に書いたパチンコシリーズ。篠房六郎を見て思い付いたヴァーチャルもの。荒木飛呂彦リスペクトでスタンドもの。特撮エース続刊記念、人体改造もの(堀骨砕三っぽく)。トランス大河。アイディアだけはあるんですが、それを書くほうが・・・
 ともかく、やれることだけやります。やれることを。
 それでは。
    ¥=$



p.s 明日湖県という舞台を提供してくれたW.Q.さんに、この場を借りて、お礼を言います。Grassios。こっぱずかしいんでスペイン語。

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