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大○巫女茶屋
〜身替り餅〜


作:mulu.w


 この話はフィクションであり、実在の店舗、人物等とは何の関係もありません。

−2−





……ハァハァ……。

 酸素を不足を補うために呼吸が荒くなっている。

 落ち着いてくると、背中にじんわり寒気を感じる。
 寒い…
 半分無意識に両腕を交差させ、逆側の二の腕をつかむ……こんな肌触りの服着てたっけ?
 腕が触れる胸の辺りに奇妙な感じ…?

…?

 変な感じがしたので自分の胸を見下ろした。

 白…?
 その向こうには赤い色が見える。

 心臓の鼓動が早くなるのがわかる。
 少し震える両手をゆっくりと目の前に持って来た。

 僕の物ではあり得ない小さな手のひら。
 僕の物ではあり得ない細い指。

…僕の思い通りに動く?

 心臓の鼓動が大きくなっているような気がする。

 その時、「気分は悪くないですか?」と男の声がした。

…死ぬほどびっくりした。
…心臓が止まるかと思った。

 声のした方を見ると、男が立っていた。


…………誰?


「入れ替わりはうまくいったようですね」
「入れ替わり?」
 僕はここで初めて声を出した。
 ある程度覚悟はできていたけれど、やっぱり僕の物では無かった声。

『彼』はどこからともなく鏡を取り出した。洗面所なんかにあるサイズの奴だ。
「これで納得できるかな?」
 僕の目の前に持ってくる。

 小さな顔。上着は白衣。
…………さっきの巫女さん?

 にわかには信じられない思いの僕は手で顔を触ってみる。
 鏡に映る僕の手は、僕の思った場所を触れるし、触られた感触もある。

『彼』は鏡を伏せた。

 ここでようやく『彼』を見上げて観察する余裕が出来た。
 見覚えのある服。
 見覚えのある顔。

……僕?

「理解して頂けました?」

 僕の思い通りに動くのが巫女さんの身体で、目の前には『僕』な誰かがいる。
 入れ替わり?

 時間とともに、混乱に沸騰していた頭も冷え、心拍数が元に戻っていくとともに、その言葉の意味がじわじわと染みてきた。

 僕がそんなふうに固まっている間に、目の前の『彼』はがさがさとアンチョコの紙を取り出して広げると、
「私になった貴方には、このお店で働いて頂きます。時間は1時間です。
 1時間後には同じことをして元の身体に戻りますのでご安心を。
 この店から出たり、私の身体のあちこちを不自然に触ったりするのは禁止。
 私の身体で、その服装だから逃げるのは無理だとは思いますが。
 お店での仕事は『身体が覚えている』ので、その通りにすれば大丈夫です」
「お店で…働く?」
「そうです。いわば、かなり本格的な体験コースですね」
「!」
「お嫌でしたらすぐに戻れますが…」
「1時間後には戻れるんですよね?」




 ぱたぱたぱた…

 草履の音。

 僕が歩くのにあわせて、僕の足元で緋袴が揺れる。
 背中では首の後ろで結った髪が僕の背中をたたく。

「いらっしゃいませ」にっこりと微笑む。
 身体が勝手に動いてマニュアル通りの応対ができていく。

……働いている間はいいが、それ以外の時間は素面に戻るので、色々なことを恥ずかしいと感じる。
 どうも落ち着かない。しかし、まだ時間は残っているようだ。



 僕がさっきの場所へ戻ると、

「お疲れ様」と僕の身体の『彼』

 その一言で、今まで張っていた緊張の糸が切れて、へたへたと座り込みそうになる。
 疲れた…ちょっと面白恥ずかしかったけど、もういい。元に戻りたい。

「それじゃあ、元に戻りましょうか」
「うん」

 僕は、机の上の小皿の奥の餅を手に取り、先程と同じように餅を口へと運んだ。


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