こんにちは、初めまして。私は真城華代と申します。
最近は本当に心の寂しい人ばかり。そんな皆さんの為に私は活動しています。まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを解決してご覧に入れましょう。どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。
さて、今回のお客様は……。
男は焦っていた。早朝、未だ霧覚めやらぬ山中。土木工事現場で、ヘルメットと手ぬぐい姿の彼は人目をしのんで作業をするはずだった。
しかし彼の目の前には、なぜかこの場にそぐわぬ小学生の女の子がいた。彼女は男が手に持ったバケツを覗きこんでいる。
「おじさん、これ! 土器っていうんですよね!」
男はうまく取り繕おうとした。
「そうだよ、」
「それがここからでてきたのかぁ」
女の子はちょこんとしゃがむと、指で地面の土を掻いて、ぱらぱらと散らしてみた。
「土器にくっついているのと、土の質が違うみたい」
小学生らしからぬ鋭い指摘だ。
「どうしてこんなところに土器があるんですか?」
「いや、それはね、ここが昔、縄文人さんたちの村だったからだよ」
「へえ。こんな電気もないところに住んでたら、大変だったでしょうね」
もしかして分かって言っているのだろうか。男は頬を引きつらせた。
「あはは、大昔の遺跡なんだから、電線がないのはとうぜんだよ」
「あ、そっかー」
少女は白い帽子の上から、頭に手を当てた。潮時と見た男はすこし声色を変えて、少女をおどかしにかかった。
「お嬢ちゃん。ここは立ち入り禁止の発掘現場なんだぞ。だめじゃないか、お巡りさんに言いつけるぞ」
「あー、仕事なんですよ。あたしはですね、こういうものです」
少女は名刺を取り出した。
「真城――華代?」
「はい、あたしのなまえは、ましろ・かよです」
それは丁寧にどうも、と頭を下げそうになって、男はわれに帰った。
「そうじゃなくて。遊ぶならここじゃなくて、あっちのほうにしなさい」
男は谷底のほうを指さした。少女は不思議そうに言う。
「でも、ものすごーく困っているひとが、ここにいる気がしたんです……。おかしいな、おじさんのことじゃなかったんですね」
「とんでもない、おじさんは全っぜん困ってなんかいないよ」
男はもう焦ってしまって、現場を境するロープの外へと少女を引っ張っていった。そのとき、
真っ赤なポルシェが、粘土質の斜面を登ってきた。
派手なクラクションを一発あびせて、なかから現れたのは二十歳くらいの女性だ。小学生のほうも白づくめだが、この女はもっと変わっている。真紅のスリット入りワンピースに緋色のパンプス。そして手には黒い旅行カバン。
いったいなんだというのだろうか?
「あ、さーやお姉さま、おはようございまーす」
白い少女が、ていねいに四五度で頭を下げた。
「華代ちゃん、あいかわらずお仕事熱心ね、こんな山のなかで……」
さーやと呼ばれた女性は、埃っぽい空気をわずらわしそうに扇子であおいだ。
「まあ、あっちこっち掘り返しちゃってたいへんなこと。おいも掘りかしら?」
こいつもか、こいつもピントはずれな会話で俺を愚弄しようと言うのか!
「あのね……」
話しかけようとする男を、無粋そうな目でにらむさーや。
「誰なの、この風采のあがらない男は」
「ああ、この人はですね、」
華代ちゃんは男を紹介した。
「発掘がぜんぜんうまくいかなかったから、偽造した土器を埋めて遺跡を捏造しようとしてるひとですー」
全部言われてしまった。男は頭を抱えた。
「なんなんだー、おまえたちー!」
このままではほかの作業員が起き出して来て、いままでの悪事がすべて明らかになってしまうだろう。座りこんで泣いている男の肩を、さーやがやさしく叩いた。
「ほらほら、男の子がそんなことで泣かない。発掘をクビになっても、もっとあなたに向いたつぎの仕事が見つかるわよ」
「不景気ですけどねー」
ふたりに散々なことを言われて落ちこむ男。
「もうだめだ、破滅だ……」
華代が腕組みして考える。
「うーん、おじさま、ほんとに困っちゃいましたね」
「そうねぇ。どうしてさしあげようかしら」
「こういうのはどうですか?」
華代が、手帳になにか書いてさーやに見せる。
「だめよー、そんなの。むしろ、こうしたほうがいいんじゃない?」
さーやが手帳にさらに書きこんで返す。
「わ、おねーさま、大胆! おじさんによくても、それじゃ他の人に迷惑ですよー」
「あなたに言われたくないわね」
はじめは穏やかだったのだが、しだいにことばが激しくなってくる彼女ら。ふたりは互いにライバルらしい。
「ちょっと、そこのおじさん!」
「おじーさん!」
男はいきなり詰め寄られた。
「あなたの悩み、華代がきれいに、霧散してさしあげます!」
「あなたの悩み、さーやがゴージャスに解決してさしあげますわ!」
あらためてふたりともが、名刺を差し出した。眼がらんらんと輝いている。
「あたしたちふたりのうち、どっちかを、選んで!」
男は正直に
「俺の望みは、おまえらふたりともいなくなってくれということだ」
と言おうと思った。でも、こいつらはそんなことを聞いてくれそうもない。ガキよりは大人のほうがましだろうと思い、男は赤い服の女を指さした。
「あんたに頼むよ」
さーやは華代に向かって「へへーん」と舌を出すと、その場にしゃがみこんでカバンを開いた。
「あなたにはどれがいいかしら。そう、これね」
さーやは銀色の笛を取り出した。華代がつっこむ。
「えー、また笛ー?」
「うるさいわね、いつもとは違う笛なのよ」
たしかに男には、トランクに笛が百本くらい入っているように見えた……。この女は大丈夫だろうか?
「はい、あなた、その丸いくぼみに立って」
そのことばには妙に強制力があり、男は素直に居場所をかえた。
「動いたら殺すからね。行くわよー!」
さーやが笛に口を当てた。そこから発せられた響きは!
どうしてそんな金管楽器から、雅楽の複雑な調べが出てくるのか。いや、雅楽ではない。それは大陸文化の影響を受けていない、そう、もし原始の日本に音楽があったとすれば、このような旋律だったのではないかと思わせるような、そんな民族音楽だった。これが本物なら、大発見である。
「すごい、この女、まさか本物の……」
全身に沸きあがるような感動を覚えて、男はことばを失った。
しかし、男のこころの高ぶりは制御を失い、身体に思わぬ変化をもたらした。熱い液体が身体の中を流れ落ち、手足から胴体へと熱が集まる。彼の身体は焼けた鉄板に乗せたバターのように崩れた。発掘で鍛えた筋肉が、みるみる細くなっていく。さらに、足をふんばっているのに落下していく感覚が男を襲う。身長が縮んでいるのだ。三十センチ低くなったところで落下は止まったが、熱い流れはそのまま突き抜け、こんどは足から地面へと伝わった。
こんどは地面までが突然形を変え始めた。男を乗せたまま隆起した地面は組み上がった木材になる。柱はそのまま宙へ伸び、屋根を支えた。男には一目で、それが高床式住居と分かった。
衣服は長い丈の麻織物に変わった。小さくなった身体が、まるで護られているような温かな感じを受ける。男は神々しい女の声で言った。
「我(あ)は卑弥呼なり」
その声に慌てた男は、麻の着物に包まれた自分の身体を触ってみた。曲玉のネックレスの下に豊満な乳房がみるみる膨れ上がる。お尻の丸みが、ふと母親を思い出させる……。
おとこは驚愕した。しかし着物のたもとに本物の金印が入っているのに気づいたら、男はそっちのほうで失神していただろうが。
それを見た華代ちゃんは、とりあえず住居の上の女性に、「へへぇ」とかしこまってみた。
「ほんとー、『原始の女性は太陽』なんだー」
「はーい、さーやのワンポイントレッスン! 今日のおじさんには縄文女性になってもらいました。まあ、発想の転換ですわね。遺跡が偽物だと悩んでいるのでしたら、自分が本物になってしまえばいいのですもの。彼女が作ったのは正真正銘、本物の土器ですわ。あのあと彼女はすっかり町の名物に。毎年の祭りで見事なストリップ・ショーを披露したって話よぉ。アメノウズメと混同されてる気がするけど……、まあ、いいですわ。やっぱりセールスレディーは、お客様の満足が肝心ですもの!」
えー、今回はさーやお姉さまに先を越されてしまいました。でも卑弥呼様、すっごい迫力でしたねー、映画すたーみたいでした。
では、あたしはたびを続けます。つぎは、どこかな?
(終わり)