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排水溝の奥深くから、声が聞こえてくる。
そいつは、この世のものとは思えない姿をしている。
強いてあげれば、洋画に出てくるモンスターであろうか。
環境が変われば、そこに住む生命も変わるものだ。
このモンスター(日本では獣か?)もそうして生み出された生命。
いわば人災なのだ。
そしてこの獣が洋画のようなゆえんはもう少しある。
それは・・・スライムのような不定形、侵食能力。
・・・夜が明けた。獣の世界もこれでひとまずの終焉、夜を待つばかり。
・・・でも無いのである。朝の商店街。
一見穏やかに見えるこの広い場所でひとつの事件が起きていた。
野良猫が大量に死んでいたのである。
いつもは餌をもらいにやってくる野良猫たち。
(とはいっても去勢、避妊手術くらいしているが。治安がいいのだ)
その無残な死に様には、よほどのもので無ければ感じる嫌悪感があった。
高校の制服を着た集団が歩いている。
これから学校が始まるのだ。
身の丈の同じくらいの男子が世間話をしている。
「おい見たか?」
「猫か?
それなら見なかった。うちの爺さん吐いてたぜ」
「ひでえやつもいたもんだ。人殺し予備軍だぜ。絶対」
「それはちがうわ」
少し長いショートカットの少女が口をはさむ。
「なんだ、三鷹。いたなら言ってくれ。心臓に悪い」
とはいえ、可愛い顔なのでさほど迷惑そうでもない。
「あれは獣の仕業。捕食した形跡が見られるの」
「三鷹は妙な事に詳しいよなあ」
妙に顔がにやけている。
「ま、関係ねえよ。明日になればみんな忘れてるのさ」
「・・・悲しい事ね」
少女は、顔を少し曇らせた。
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「環境保全委員会がさまざまな条約を取り付けて、地球環境の春が来た。
といわれたのは西暦何年だ? 三鷹。答えてみろ」
ガタイのいい、趣味で体を鍛えていそうな、
どちらかといえば体育教師の男が生徒を指名する。
「・・・2006年です」
すらりと答える少女。
「良し。正解だ。・・・嫌な時間帯だな。よし今日はここまで」
この教師、生徒受けは良いのだ。
「起立! 礼!」
少女の席に、友人が歩み寄る。
「汀<みぎわ>。勉強してるのね。私なんか全然わからなかった」
髪を三つ編みにした、スタイルの良いめがねの少女はそう言った。
「一般常識じゃん。ニュース見てたらわかるじゃん」
気さくに答える少女、汀。
「お〜い三鷹。今日誰か休んでたっけ?」
「・・・佐村君と閏野君よ」
そっけなく答える汀。
「サンキュー三鷹。恩に着るぜ」
「・・・どうも」
こんな汀に、友人の突っ込みが入れられる。
「汀ってさあ」
「? なに? どうかしたかな?」
やはり、気さくに答える。
「ぶりっ子なの? 男子と話すときは」
「たぶん、人見知りじゃん?
美紀とかとなら普通に話せるじゃん。私」
「あと最後にじゃんってつけるよね〜」
「マンガの影響じゃん?」
「汀、好きだもんねえ」
「やっぱりマンガじゃん。アニメは面白くないじゃん」
にやにや笑いながら答えている。
たわいも無い会話の中、この学校に獣が迫っていた。
そして、この手の話でよく出てくる、対策組織もである。
男が二人、ボサボサ頭と坊主頭。
ファッションゴーグルとサングラス。
アロハシャツとタキシード。
やる気あるのかと突っ込みたくなる二人組だ。
まず、ボサボサ頭を掻きながら、話しはじめる。
「どうだ、未申」
坊主頭が答える。
「いつもながら、問題は無い、丑寅」
「戌亥と辰巳はまた休みかね」
「万年休みだからな」
「俺たちだけで、片をつけるしかないのね」
「相手は人を捕食こそすれ、好戦的かつ凶暴ではない」
「しょせん人間様にはかないませんってなあ」
笑って返すボサボサ頭、丑寅。
「皮肉か・・・」
あくまで表情を出さない坊主頭、未申。
「お仕事お仕事、今夜のシャンパンはうまいかねえ」
「マスカレード・・・オン」
謎の器具が取り出された。
*******************************
校舎内の水飲み場、
都会だが、特注の炭などで浄化しているためおいしい水が飲める。
ピチャ・・・ピチャ・・・
「だれ?水止めなかったのは?
水浸しじゃない・・・」
「これでよし・・・と」
カツーン・・・
「?」
カツーン・・・カツーン・・・
「な・・・なんなの・・・?」
「ニャオーン」
「何だネコ・・・おどかさないでよね・・・」
「ニャオーン」
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「それでは、ホームルームを終わります。起立、礼」
「ああ、マザーPCの様子を見なくてはな。君たちなら心配ないとは思うが」
「おっと、イスをどかせてくれたまえ」
「ありがとう。・・・・・・よし、心配は無かった。ウイルスも無い」
「気をつけて帰りたまえよ。野良猫の件もある」
放課後、卓球、バレー、野球の快音。
さまざまな音が混じりあい、静かな昼下がりを彩っている。
帰るものの中には、暇つぶしに携帯ゲームをしているものもいる。
この学校はスポーツ周りに力を注いでいるので、
彼らのような帰宅組はむしろまれである。
おかげで、このあとの事件にまきこまれずにすんだのだが・・・。
三鷹汀、倉本美紀らはその時まだ校舎にいた。
倉本美紀が、三鷹汀に社会分野などのコーチを頼んだためである。
この二人は、運が悪かったのだ。
美紀がナポレオンあたりを教わっているところで、
教室に見知らぬ顔の女の子二人が入ってきた。
サラサラのロングヘアー、大和撫子風の少女と、
ショートカットでボーイッシュな少女だ。
とはいえ、制服は同じ。違うクラスなのだろう、そう思っていると・・・
「う〜ん。そろそろ環境が変わる頃だな。こういうのは初めてだけれど」
容姿に似合わず、長い髪の頭をボリボリ掻きながら話すその姿は、とても怪しい。
「・・・スイッチが入った。至急探査する」
ボーイッシュな少女は、やけに固く話す。
「あの二人・・・おかしくない?」
美紀の指摘はごもっとも。学業の方も頑張ってくれ。
「・・・最近のはやり? あたし詳しくないじゃん?」
汀はどうでもよさそうに答える。
「・・・? なんか空気が・・・?」
その直後、汀は違和感に襲われる。
美紀がその場に倒れこむ。
「ん・・・? 美紀!? 大丈夫!?」
少々慌てた顔で、美紀をゆすって起こそうとする。
「美紀〜しっかりするじゃん〜?」
話し方はいいかげんだった。
「へえ・・・この子・・・」
ロングの子が物珍しげに見ている。
「適応できたのか。珍しいな」
冷静に見るボーイッシュ。
「騒がしくなるぜ・・・気を引き締めないとな。未申」
「・・・言われるまでも無い。パニック現象の方が、獣より厄介だ」
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校門が、固く閉ざされている。
誰も外には出られない。10t
トラックが倒してある。
野球部部室では、血まみれの部員が倒れている。
サッカー部員はフィールドで倒れている。
バレーコートでも同様。
そのほかも・・・。
この校舎で意識があるのは、汀と怪しい少女二人だけである。
そして、目覚めの時がきた。
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まず目覚めたのは、女子テニス部である。
「・・・頭がぼうっとする・・・」
「あれ? 声が・・・?」
「お、俺! 井上ちゃんになってる?」
「田中先輩のパンツ、丸見えだ!」
サッカー部では、
「何でみんな寝てるんだよ。おい、おき・・・俺?」
「マネージャーになってる!?」
「ああ、腹が痛い・・・」
野球部員は、血はとまったがいっこうに目覚めない。
校内中でこの現象は起きている。
目覚めるのは女子のみ。
それも自分はこの女子ではない。というのである。
本気で頭を抱える者。
トイレに行く者。
堂々と服を脱ぎ、探索するもの。
容姿で頭を抱える者。
実にさまざまである。
そして、美紀は・・・。
「美紀・・・どうしたのかな?」
「いきなり叫んだかと思うと、走って行っちゃった・・・」
ふと気付くと、校舎内外はてんやわんやの騒ぎだった。
まあ、そうであろう。
ふと気付いて自分がテニスウェアでミニスカで女の子だったら・・・
「? 何か騒がしいなあ? どうなってるじゃん?」
汀は冷静だ。
まあ、そうであろう。
校舎内の人間ではただ一人、影響を受けていないのだから。
マイペース人間だからかもしれないが。
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「つまりさ、俺はこう思うわけよ」
ロングヘアーの少女が言う。
「・・・」
ボーイッシュの少女は答えない。
「この場合は戌亥が来るべきだったってさあ」
構わず続けるロング少女。
「・・・貴様はやる気なのか。獣塊と」
ここで答えるボーイ少女。
「かけらでもあの獣だからねえ。俺は痛いの嫌いよ」
さらっと答えるロング少女。
「マスカレードを使って変体しなければ、自分とお前では環境に対応できなかった」
答えになっていないボーイ少女。
普段話さない人が話すと、何を言っているかわからないものです。
「だが、戌亥には連絡しない。奴は始末屋。今回の任務は回収だ」
それでも、的は射てくれることもあります。
「へへえ。未申さんは仕事熱心でいらして。まあ、一度受けた仕事はキャンセルできねえし」
長い髪でくるくる回りながら、
「キャンセル待ちしてる人もいないし〜」
ロング少女はひとり言のように言う。
「自分はマスカレード変体で一月を過ごす気が無い。それぐらいだよ」
未申と呼ばれたボーイ少女はやや棒読み気に答える。
そして、
「どうやらこの辺りだ。気を抜くな。丑寅」
「ああ、くれぐれも気をつけようぜい」
二人とも真剣な、「仕事の」目になり、機をうかがっている。
*******************************
「や、やめてください市原先輩。僕は・・・その、角野ちゃんじゃないんですよ」
小柄なかわいらしい少女が、いかにも困ったような顔で哀願している。
「いいじゃねえか。どうせ俺だって市原じゃねえのよ。今は女同士、楽しもうぜ」
グラビアアイドル風の少女は、その顔をいやらしく変え、小柄な少女を押し倒している。
どう見ても市原の方が有利である。
「何ならお前からお楽しみになってもいいんだぜ?角野ちゃん」
そういうと市原は自分の胸元に角野の手を当て、揉みしだかせ始めた。
「ああっ、やめて・・・ください。頭が変になっちゃいます」
角野の顔は理解できないといった表情に満ち、光景の異様さを引き立たせた。
「ああ、気持ちいいぜ。たまに痛いけどなああ・・・いい・・・」
ボカッ
後ろの窓から現れた人影は、すばやく市原を捉え、一撃を入れた。
「なにしやが・・・って、汀。ちょうどいいとこにきた、お前もたのしも」
ドスッ
これは、みぞおちに入った。
本当の市原には大迷惑である。とうぶんおいしいご飯は食べられない。
「昼間っからちちくりあってんじゃないじゃん」
汀は額の汗をぬぐい、一息ついた顔で清涼飲料水を飲み始めた。
「ぷはあっ、・・・君はまともそうじゃん。立てる?」
今は角野となった少年に手を差しのべる。
「あ、はい。立てます。じ、自分で・・・」
息を乱しながらそう答えるさまは少々こっけいだ。
「・・・そう、それはよかったわね」
そっけなく返す汀。
「あ? え? す、すみません?」
おもわず語尾も上がる。
「あ、ごめんね」
「私は人見知りするタイプだから・・・その、男相手かもと思うと緊張しちゃって・・・」
「それにしても校内中風紀の乱れが深刻じゃん。みんな男だズラ。男だズラ。とか言うし」
「やっぱり男はスケベだなあと実感したじゃんで・・・その、ごめんね。気、悪くしないでね」
なぜかしどろもどろ、純潔な汀はこういう痴態に免疫が無いのだ。
「一体なんなんですか?いきなり、角野ちゃんになっちゃって・・・」
切り出す角野。
切り替えが早い。
とてもさっきまで襲われていたとは思えない。
「校内中のハレンチは気絶させたけど・・・わかんないじゃん」
「え? 気絶?」
「あ? こっちの話じゃん」
「・・・」
あらためて汀を見る角野。
「あなたは普通の人ですか?」
そう問い掛ける。
「う〜ん。漫画とか読むけどそれは普通だしじゃん。・・・普通、かな?」
「あ、私の名前は汀。ちょっとの間ヨロピクね」
にっこり笑って答える汀。
漫画好きの彼女にはこの状況は楽しいのかも。
(ヨロピクはないんじゃないかなあ)
「あ、よろしくお願いします」
本音はサトラレよろしく、角野はとりあえず汀と握手をした。
(暖かい手だな、って走った後みたいだし当然か)
今は静かになったその場所で、変わらずうごめいているものがいる。
それ以外では、この学舎の長。学校長が気を失っているくらいである。
うごめいているのは、獣。
何かをむさぼり食らっている。
これが校長の3時のおやつでなければ壮絶であったろう。
(草加せんべい)
*******************************
その校長室の向かいの、教材室の前に二人の女の子がいる。
この学校の制服を着ているが、なにやら様子がおかしい。
周囲の様子をうかがっているかのようだ。
そして、
「ねえ、未申さん」
大和撫子風のロングヘアーの少女が呼びかける。
「・・・なんだ丑寅」
未申と呼ばれたボーイッシュな、エクストリームでもやっていそうな少女が答える。
「もう何分待ってると思ってる?
ここじゃないぜ、確実」
丑寅と呼ばれた少女は顔に似合わずくだけた言葉を使う。
「他はほぼまわったはずだ」
そっけなく返す未申。
「・・・レーダーとかないのかよ。校舎中まわって成果無しじゃあ」
ため息と愚痴をもらす丑寅。
「そんなものがあったら自分たちのようなエージェントはいらん」
「リストラすか」
「・・・そんないい身分か?自分たちは」
「はは、そうかもな」
「・・・だが今日の任務を果たさなければ、明日を生きる事もかなわない」
「何の因果かなあ。ま、いいさ。楽しむだけ楽しんで消えるんなら」
丑寅、標準サイズの自分のバストを揉み始める。
「・・・おかしい。ここまで奴が動かないとは」
未申、それには無関心。
「おやつでも食べてるとか? う、ん」
*******************************
一方、静寂さをかき消し、音の響きをもたらす者がもうワンペアーいた。
ドタドタドタドタ・・・
吉本新喜劇並みのスピードで走る女子一人と、
声をかけた人がそれと気付かず、
そのまま行ってしまいそうになった時に慌てて走ったくらいのスピードの少女が走っている。
汀と角野(本名稲本)である。
「み、汀さ〜ん!」
息を乱しながら呼びかける角野(稲本)。
「・・・・・・」
「汀さ〜ん!」
もう一度。
「・・・何?どったの?」
FFIXの戦闘シーン並みに間を置いてから答える汀。
「これから、どこいくんですか?」
「新宿!」
「ええっ!?」
「・・・いや、冗談じゃん。ジャニーズみたいな事聞くから」
「今は2010年代ですよ。なんでVシック・・・」
「おっと、それ以上はいけねえじゃん。JASRACに文句いわれるじゃん」
「・・・じゃんってくちぐせですか?」
(さすが、JASRACにはコメントなしじゃん)
「そうじゃん」
「なんか変な話になりましたね。ところで、これから・・・?」
「さすがにこのまま帰るわけにはいかんのじゃん。みんなを元に戻さないと」
「・・・よくそんな気になれますね。僕ならたぶん黙って帰りますよ」
「正直者じゃん。ふつうはヒーロー発言をするもんじゃん。君は大物じゃん」
「そりゃあ、目を覚ましてこれじゃあ表面を取り繕う気にもなりませんよ」
「角野ちゃんは背は小さくても大物じゃん」
角野(稲本)の顔が赤くなる。
自分が今女の子である事を再確認させられたためだ。
「・・・、で、どちらに?」
「生徒連中は眠らせちゃったから、先生方を探そうかなあ、と」
(恐ろしい人だ)
「じゃ、じゃあ、職員室はどうでしょう?」
「あ!
職員室も行ってたよ。木下先生がノびてた。職務怠慢じゃん。
にしても君、落ち着き無いよ」
(本当にのびていたのかなあ、もしかして)
「あははは、急に緊張してきましちゃって・・・」
角野(稲本)が自分の身を守るために下手な会話をつないでいた頃、
獣は餌(草加せんべい)を食らい終え、次の一手を模索していた。
*******************************
♪ プププーププ、プププププピウー!
やけ気味にチャルメラのような音がする。
「くそー、獣が人を待たせちゃいけないんだぜ!?」
「そんなこと、ワシントン条約にも書いてないだろう」
「ああああああああああああああああ!
ジャイアントパンダー!!」
「まるで、誰かを待っているかのように出てこない。・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「何か、何かか・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・!! そうか!
適応者だ。あの子を待っているのではないか?」
「珍しく良くしゃべるな!
でも、その考えには賛成214反対34無効2だ」
相当まいっているようだ、心が。
「ドクトル・クーパンハウゼンの説によれば、間違いなく奴らの目的は適応者」
「T・S教授の説だったらローゼ星人の生体医療機器だけどなあ」
妙な専門用語を使い始めた二人。
「・・・あの子の確保だ。どれらにせよ、適応者はこちら側にとってのマイナスにはならん」
「もっと早く気付いてくださってもなあ、それだけ詳しい未申さんならば」
「・・・お前が行け」
「ハア!? 若年痴呆か君は!?
どう思案をば張り巡らさせたらそうなるんだ」
「自分がここを離れるわけにはいかない。それに移動速度はお前の方が早い」
「はいはい、使いっぱになるには十分すぎるお話だ。わかったよ。行くぜ」
そういうと丑寅は走り出した。腕を振り、頭を下げ、なかなかいいスピードで走っている。
そして、あることに気付いた。
(今の体じゃああいつの方が確実に早いよなあ。またはめられたか。
でもあいつの方が確かに頭はいいからな。北京大学とか入れそうだし。
それよりも今日の晩飯何にしようかなあ。今日はさっぱりしたものが食べたいから・・・)
ダカッ!!!
前方不注意。
「バカヤロウ! 死にてえのか!!」
まるで武田鉄Xを怒鳴りつけるかのような声を張り上げる丑寅。
大和撫子然の容姿も台無しである。
「こちとら急いでんだよ! さ、どいたどいた」
自分と衝突した少女とその友人らしき少女を残し、再び駆け出す丑寅。
そう、彼は一刻も早く教室で出くわしたあの、「適応者」である少女を見つけなくてはならない。
丑寅は探した。
一生懸命探しました。
自販機の下に落ちた100円玉くらい一生懸命探した。
これがウォーリーだったらもう諦めるだろうというレベルまで探した。
だが、見つからなかった。
行動力に絶対の自信を持っている人間が結果を出せないとき、とてもみじめな気分になる。
彼は相方の未申が放つ恐れのある言葉を全てシミュレートしながら戻ったという。
(ついでに自販機で炭酸飲料も買ったという)
外では西に傾いた太陽が、笑っていた。
「未申、ごめんなさい。日本全国探しました。一生懸命探しました。
でも、あの子は見つかりませんでした。でもがんばったんです。それって何か、素敵やん」
ほぼ棒読みのセリフを駆使しながら肩を落として戻ってきた彼に未申は、
「・・・お前か。もう終わったぞ」
「・・・」
「・・・」
「はあ、最近年だから耳が遠くてねえ。もっぺん言ってくれんもんかねえ」
「・・・今回の仕事は終わった。彼女たちの協力のおかげでな」
ふと目をやると、そこには一人の少女がいた。
どこかで見たような、だがしかし・・・
「・・・あ! さっきぶつかった娘だ」
「どうも、三鷹汀と申す一女子ですじゃん。さっきはあ・り・が・と・う」
汀、微笑みながら丑寅の右手を握り締める。一生懸命握り締める。
「いやあ、力強いご挨拶ですね」
右手をふーふーしながら丑寅は答える。痛みがこたえるらしい。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
周囲に、心地よい静寂が流れ、リラクゼーションとなる。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「じゃねえええええええええええええええ!!!
なんでだよ!
なんで一番の盛り上がりどころで俺が出ないんだよ。
確かに俺は戦闘向きじゃないさ!
洋画でもトム・クルーズには弾が一発も当たらないのに
俺は全弾食らって死ぬほうのキャラクターさ!
水戸黄門でも杖振って戦うご老公と真剣でつばぜり合いをするさ!
そもそも獃けものでさんざん引っ張ってきといてオチがもうやられてましたか!?
そりゃあいけねえよ!
エンターテインメイトなめんなよ! 自己陶酔かよ!
膨大な量の元ネタ辞典を作って楽しむかよ!」
静寂を打ち破って丑寅が吠える。
後半は良くわからないが怒りに燃えている。
それだけはわかる。
「ああ、怒り心頭に極まっているじゃん、彼。うしとらさんのための獣講座、やっとく?」
「ああ、たのむ」
*******************************
私は最初、美紀の居場所を聞こうと、未申さん(けったいな名前)と接触しました。
あ、いやらしい意味じゃないよ。まじめな話、じゃん。
そこで未申さん(以下ひっさん)に「この星は狙われている」的な話をされまして、
スーパーな話かなと思ったわけですじゃん。
ところがどっこい、今当局でも調べ中で、
大それた話の出来ないような相手を捕まえるために来たんだとおっしゃるひっさん。
俄然やる気になったので、とりあえず握手をしたその時、
私の後ろから
宮崎アニメに出てくるような奴を4倍界王拳でグロテスクにしたような奴が現れました。
校長室から出てきたんですね。
いやあ、三歩下がって師の影を踏まず。とはこのことか、とねえ。
ハリウッド映画のラスト30分ばりの私の活躍で何とかこの、
「獣捕獲用ケージ」
にば厳重封印したわけですじゃん。
液体窒素?かなんかで冷凍?したらしいのじゃん。
それにしても、壁を貫通して追っかけてきた時はやばいと思ったなあ。
*******************************
「あっ! ところで美紀たちはどうなるんですか?
まさかとっつかまえて人体実験なんかしませんよね」
切り替え早く質問する汀。
丑寅のことは本当にもうどうでもいいようだ。
「率直にいえば人体実験はしない。だが、獣塊に巻き込まれた以上は野放しには出来ない。
然るべき措置を取ることになる」
「うわっ!
出た。然るべき措置。詳しく教えてくれませんか?」
ちょうど角野(稲本)が戻ってきた。
ジュースを買いに行かされていたのだ。
よくわからんものに振り回された挙句パシリである。
今日の運勢、末吉。
「はあはあ・・・、買ってきましたよ」
「話をぎっくり腰にしてくれちゃって、オールドタイプか君は」
アニメ的なツッコミをする汀。
当然ここにいる誰も返せない。
「・・・彼女、いや彼か。
このような例を見ればわかるように
獣塊には人に対して重大な影響を与える”何か”を持っているのだ。
有力な説をこっそり教えると環境に干渉できるそうだ」
「艦橋?」
話し言葉ではボケてもわからない。
「そう、環境だ。
人ならずとも生物には、
自分の置かれた環境において自己を変革、適応する能力を持っている。
だが獣塊は明らかに異質。
自らなんらかの環境を操作し、他を適応させる」
「だからって女の子が自分は男やって言うものなのかな?
しかも元は違う体だったとか言うし、記憶の書きかえってやつっすか」
「・・・」
角野(稲本)はもう話についていけない。
「そこらへんについては俺たちは考えるべきじゃないのかもしれないな。
十年二十年たってはじめてわかる事だってあることだ」
丑寅も話に参加したいらしい。
「そうだな。汀。
この学校で獣塊に適応させられた者は、君以外の人間は全員、
公的には新種の伝染病に集団感染したことにされて上の組織で人道的に保護される。
稲本君だったか? 安心してくれ。
公には出来ないものだが、エージェントでもない君たちを強制的に実験したりはもうしない」
「もうってどういうことですか?」
やっと答えられる話題になった。
「獣塊自体を捕まえたからだ。
人間そのものを調べてもなんの結果も出ない事はもう周知の事だ」
「・・・俺たちも、一応元には戻れたからな。マスカレードタイプの獣塊ん時。
まああの時はびびったなあ、
いきなり朝起きたら俺の部屋に貼ってたポスターのアイドルそっくりになってたんだから」
「自分は近所の豆腐屋の主人だった」
「・・・大変だったんですね」
「じゃあさあ、今回のは何タイプ?
チェンジゲッOータイプ?」
漫画好きなだけにこの手の話題には食いつく。
例えは多分間違っている。
「ゲッOーならマスカレードと一緒だろ。今回のは女の子の方の意識が無いから・・・
ヘラクレスのO光4タイプじゃないか?」
「何それ? 例えが全然わからないんだけど」
「昔そういうゲームがあったんだよ」
「MOT*ERならわかるんだけどね、そこまではわかんないなあ」
読んでる人もおそらくわからんのであろう。
美紀の事がすっかり忘れ去られている事も。
*******************************
あれから一月が過ぎた。
捕獲した獣塊の解明が比較的良好で、半年かからずに全員がもとの暮らしに戻れそうである。
ただし、記憶は消される事にはなるが。
アロハシャツの男がチャイナドレスの少女に近づき、話し掛ける。
「よう、ここは慣れたか? 汀」
「A級エージェントに向けて話す言葉じゃないんじゃん?
Bの人が」
「そりゃあお前は”適応者”で獣塊の環境操作に影響されないんだから当然だろう。
ま、にしてもよく志願したってのは認めてやるがな」
「丑寅だって志願したんじゃん。学歴が低いから」
「・・・結構命がけなんだぜ、こっち。こんな仕事じゃ労災もおりないし」
二人はそれなりに親しくなったようだ。
「まあ、なんにしてもこれからだな。ヨロシクやっていこうぜ」
「はは、なんかジャンプで打ち切りになった漫画の最終回みたいだね」
<おしまい>
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