OX in free

第ニ回

 

ピッキーティンキーモンキー 2

作 W.Q  


 

7.はっぴーでー、はぴーごー

デパートメントへの道を僕は歩いているから生きていたことに思い当たって、まだ死ねないなんて意気込み。だって、僕はたぶん、いつになくハッピーハイ。

痛む左足をひきずりながら、片手には黄色いぬいぐるみが妹、見上げれば黄色い雲に覆い尽くされた憂鬱だけれど、今って僕、そのむこうに青空を見つめることのできるきらりとした想いのつれづれにラッキーパイのフィットしたハートの主、キミに伝えたいことがある。

オナニーなしの朝は、なんだか快調だ。

遠ざかるクラクションの意図しない抑揚がBGMに小躍りしたくなる僕はきっと、少女のようなんだろう。胸元に揺れる乳房の上下がハッピーに華を添えて。ヒップがスウィング、僕は発情期のように見えるかい?

コンビニエンスストアの自動ドアが勝手に開いて、物凄い熱気を噴き出した。電線が興奮したようにバチバチと波打つ。工事現場の回転灯がスピンアウトしそうな勢いで点滅。マンホールを突き破って水柱、どこの誰かのなんなのか? 僕にとっては祝福が噴水。

はっぴーアごーごー、鼻歌のららら。

妹を濡らさないように気をつけて、追いかけてくる虹を尻目に僕は、屋上から黒煙を空に溶かしているデパートメントストアの建物へと急ぐのだった。

らったった。

 

8.クロス!クロス!クロス!

歩きつかれたら休むって自然を繰り返しながら大通りを行けども、誰とも出会わないつまらない。

視線はあちこちから感じるのだけれど。

ときどき車とすれ違うも無人、僕に気づいてパッシングとライト瞬かせて急なブレーキ、灰色の泥濘にタイヤ滑らすスピンってありさまに、「もしかして、僕って魅力的?」なんて思い浮かべてしまう僕はハッピーハイに酔ったまま。

キミの街の交差点は、一日何台くらいの車が行き交うのか僕は知りたくて、キミに手紙を書こうと思うのだけれど、さっぱり住所がわからなくて連絡もとれずじまいで、ごめん。

交差点を渡ればたどりつけるデパートメント、待っていておくれジュラルミンが天使。

きゅるきゅるという音がして振動、地面から灰色の雪を舞い上げて。横断歩道があったあたりは信号の間だからって律儀な自分に思い当たる苦笑いが凍りつく、奥に見える建物の角から現われた戦車の無骨。

灰色の雪を押しのけながらゆっくり、回転するキャタピラを揺らしながらしっかり。地面伝わる振動に身をまかせていると、この体は『おしまいのヘブン』が見せる反応の以外、上っ面が肉のぷるぷる、瞳から頬を伝う熱いものがふるふる、湧きあがること内側からって感情がフル。まるで、電子レンジの卵みたいに僕と僕の体が『おしまいのヘブン』ときたら、カタカタと内圧に昂ぶっていく。

戦車が僕の横に近づいてくるよ、カタカタ。

戦車は暗闇がのぞける筒を、僕のほうへゆっくりと回すキュルキュル。

誰が運転しているわけでもない。誰かだったものが宿ったんだ。彼は戦車になったんだ。僕が女の身体に宿ったように。それはある意味、公平で均等な事のありよう。僕はそのことを彼に伝えなくちゃいけない。

「お互いたいへんだよね。僕はこう見えても男だったんだよ」

僕は触れる、鋼鉄の筒に恐る恐るな手つき。耳があるのかわからないけれど戦車、冷たい感触のつたう手の中で、血脈の鼓動のような振動の中で、動いたんだ、こそりとそれは意思の現われ。

戦車は、その長い筒で僕をなぎたおさないように気をつけながら、僕の後ろへと去っていく。

振動の去っていくやるせなさに、固く冷たい感触の残る手の平を嘗め回す『おしまいのヘブン』。それがどういう意味なのかわからない僕、口の中にひろがる鉄の味、彼の孤独と僕の孤独が交わったような一瞬と思い当たれば悪くないかと、その行為受け入れる僕の男のハート。

泣きながら、手の平に舌をはわせる『おしまいのヘブン』が、今の僕なんだと受け入れよう。

またひとつ、やらなきゃいけないことを思いついた。

 

10.デパートメント

僕の銀色のジェット機は、デパートメントの屋上に突き刺さっている。ぜんぜん風の吹かなくて、煙の立ち上ること、スカイイエローに吸いこまれていく交じり合いながら硫黄のような彩り。

僕は、僕の体が『おしまいのヘブン』の流す涙をぬぐう。そうしていると、僕は『おしまいのヘブン』に、恋に胸を張り詰めさせた乙女になったのだなと思うんだ。

キミなら、こんなとき、なんて言ってくれるだろう。

僕は知っていたはずなのにって銀色のジェット機がありさま。なのにここへ来た衝動は『おしまいのヘブン』の中に仕込まれた恋する感情。

悲しいんじゃない。寂しいのでもない。

恋する感情に身をまかせていることが、僕は心地よかった。熱い涙で、頬と股間を濡らせば、嗚咽の変わること荒い息遣い。それは、こんな世界でも生きていこうとしてしまう仕組み。僕の『おしまいのヘブン』は、悲しみを快楽に変えながら生きていく恋の仕組みを持ったマシンみーとパイ。

もう、僕はキミに会うことができない。

男同士の友情のかわりに、僕はキミの腕にむしゃぶりつくだろう。

僕は女だ。

男を誘惑することを意識せずにはいられない、そんな女だ。

僕の名は『おしまいのヘブン』。

デパートメントはショーウィンドウのマネキンが着飾ったドレス、とても輝いて見える。その輝きに誘われるまま、僕はデパートメントの自動ドアをくぐる。

フロアの中に、懐かしい喧騒は見当たらなかった。

 

11.グッバイ ミスター

フロアは一階、化粧品売り場ってキミの街のデパートも同じだろうから、妹のような黄色いぬいぐるみを抱いた僕を映すミラーのたくさん。

ひとつの鏡の前に立ち止まって。

結局、僕の魂は、この体にしがみついているだけなのだろう。

薄汚れた顔、バサバサの髪、滑らかな曲線を描く首筋からラインの艶めけば、肩口から分岐すること立体的に四方へ流れ、胸の膨らみをたどりつつ、背中の二つの骨ばった突き出しに翼想うと腰のくびれへ落ちついて、ヒップラインに弾けるボリュームを舐め尽くすクルージン。

カサカサのリップ。まつげの茂みからのぞくく潤んだ瞳が見つめ返す。

三日前でフリーズ、四日目のライブ、記憶消え入る細部、サバイバルが勝負、五日目で十分。

僕は股間のライノホーンを握り。

黄色い雲に街が覆い尽くされた晩、僕は結局射精するまで握っていたんだ。街を覆い尽くす不安から抜け出したかったから。そして、僕は抜け出した。ぬるぬるとした精液と一緒に、僕の魂は抜け出した。

オナニーが終わった。僕はスケベになっていく。日常に馴れてしまうと生まれる前のことを忘れていくように、僕はあの日の朝を忘れかけている。思い出すことをしないから忘れかけたまま、ビジョンを完全には拭い去れない僕。今、胸元を飾る深い谷間に落ちこんだ記憶をすくいあげよう。

僕の魂は黄色い雲に向かって上昇を続けていた。お父さんもいた。お母さんもいた。妹もいた。みんなエクスタシーにほどけた表情。街中のみんなが昇って行く。みんな、地上を振り返りもせず昇っていく。

ゲームのはじまりのようだった。

言ってくれよ、覚えてるって、ほら。二人でおしっこを飛ばしあったことあったじゃないかって。僕は、キミのことを思い出したんだ。

僕とキミのいつでも出会える昔みたいな快感。

エロ本をまわし読みしていたキミと僕、ホットなシナリオ描きながら、グラマラスな肢体にクールな兆発を気取った彼女達へ思いはせて、股間はぜ.るにまかせた日々よ。

地上を振り返ると、人の姿が灰色の雪の中へ粉々に崩れ落ちていくのが見えた。視界の全開は、黄色い雲と灰色の雪に閉ざされた街の全てを見ることのできた不自然なリープ。

僕はいつもそうしていたように、妹の手をひいて地上に向かった。そして、最後に最高にサイコなランディング決めたのは、見知らぬ成熟した女って大事件。この女の体だけは、灰色の雪にのみこまれずソファに身を横たえたまま、そこにあった。

身を横たえた女はとても無邪気な顔をしていた。膨らんだ胸は先端の突起が見せるかたくなな誇らしさは、僕達のライノホーン思わせて。両足をバラバラに投げ出したリラックス、両手のかすかに動いて、それは僕を呼んでいるようにも。

似てた。キミと僕が愛したあの女達に。

大きく開いた股の間から彼女に飛びこんだ僕、「くはっ」という彼女の声、聞いた気がする。

妹は傍らにあった黄色い生き物のぬいぐるみに飛びこんだ。

僕のあとに続いて地上に舞い戻った人達は、仕方なく、それぞれの気にいったものに魂をしがみつかせたのだろう。

僕の街に流星が降り注いだニュースをキミも見たはずだ。黄色い雲、灰色の雪、幾百の流れ星。

その下で僕は、必死にキミとの思い出にすがりながら、この体に魂をしがみつかせていたんだ。

乳房の裏に隠された想いは、キミともう一度出会いたくて僕が、この『おしまいのヘブン』にのりうつったのだということ。

キミに手紙を書こうと思うのだけれど、さっぱり住所がわからなくて連絡もとれずじまいで、ごめん。

 

12.後悔も、懺悔も、おやすみ

僕は、『おしまいのヘブン』に宿った生きる力に突き動かされてる。

キミへの後悔と懺悔の気持ちを無視するように、僕と僕が『おしまいのヘブン』は、デパートの化粧品売り場を流す。ため息の出るような、けして僕達には手の届かなかったモデルやタレントの挑発的な微笑みがポスターの彩り、薄汚れた女という風の僕とはぜんぜん違うこときれいっぽくて。

どうなのだろう?

僕はこのポスターの彼女より、ずっとグラマーだ。ところどころ染みのついた黄色いシャツの胸元を引き裂いて谷間のあらわに、ポスターの女が見せつけるたっぷりとした薄桃色と見比べれば確信、よいしょと寄せてもたげてみればデカイことに思わずな嘆息は、膨らんだ僕が胸のあっぷだうん。

今、キミにすべてを明かにした中で、僕は僕が乳房を揉み解す。

いたるところに鏡のあるこのフロアにふさわしい。

女の体になってしまった後悔、キミへの後ろめたさから零れる懺悔、ヤオロズのもろもろが物体にとり憑いた魂がとまどいの中にあるものも、きっと同じようなものだろうって思う僕は、先導者の罪をも感じているが証拠に妹の魂宿るぬいぐるみのこれからに心痛めている。

僕はエスカレーターを登ることにした。

おもちゃ売り場を見つけるためだ。

そこにはきっと、黄色い生き物のぬいぐるみがたくさんあるだろう。

妹よ、お前との思い出をたどれば、行き当たるのはいつもふっくらとしたぬいぐるみ。

汚れてしまうよ、と僕が言ってもお前は頬をすり寄せることやめなくて、思えば感触に安心とお茶目を感じていたのだろう、わかるよ、幼い心細さを受けとめてくれたことへの愛着。

動く仕組みを持たないぬいぐるみの中に宿る妹よ、僕がかわりに、お前の運命を決めてやる、な?

おやすみ。

投げ入れることぬいぐるみが妹、同じ姿の山積みがワゴンの中。

もう、どれが妹だったかわからない。

僕も妹と同じように生きてみようと決めたから。

レクイエムも、ららら。

 

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