OX in free

第三回

 

ピッキーティンキーモンキー 2

作 W.Q  


 

13.無知にして全能

頭からペットボトルに詰まった冷たい水を浴びよう。

すぷらっしゅ、すぷらっしゅ、すぷらっしゅ。

食料品売り場の冷蔵庫は大きな図体に詰めこまれた透明で、六日目のスタートを飾るのさ。

しばらく入浴と言う習慣に無縁だった僕の肌滑り落ちる水滴の辿る曲線。僕が『おしまいのヘブン』はこそぐられて身をよじり。するり快感の行きすぎれば後から涌き出るものって、そのありどころ示す立体、よく見知ったとはいえない今の姿伝える認識。

僕は裸で、デパートメントは地下1F、歩くは食料品売り場。

ステップは、ららら。

少しさっぱりとした肌の呼吸する感触は、体の先端から落下の反転、脳天へ駆け上り背中を滑る振幅。これは全身がハートな感じ様ってバードの手振りでハッピーを表せば罵倒に似た視線にハッと、これはここにも魂の宿りあるモノの存在、ハードなライブに巻きこんでそーりー、感じる波動に素直にもなれない不自由。

傍らの繊維質で黄色いフルーツの山をなぎ倒す。床に転がって間もないゆらぎ見せるそいつのひとつ、僕はいっぱつ、カカトで踏み潰した。

全身がブルンッ、と。

上半身を折って屈む。乳房の垂れ下がりながらも張り詰めて元に戻ろうとする向こうに見えるは大きめに砕けた果肉を二つ、手に取った。

いつか僕の手紙を受け取ってくれるキミにひとつ、よいことを教えてあげよう。

入浴って、食料品売り場でこと足りてしまうものなんだ。

僕は砕けたフルーツの中身を肌にこすりつけて、全身にくまなく果肉と果汁を行き渡らせながら、繊維の筋でブラッシュアップにいそしんで。それはさっき感じた、肌に水分が走る感触を確かめるためが行為。

もう片方の手にある果肉。投げつけて、視線ありき方向。

ぐしゃぐしゃに潰れた黄色い果肉は僕が『おしまいのヘブン』をカタチヅクル肉と交じり合い、やはり黄色い果汁の毛穴から染み入って混ざり合うは体液、『おしまいのヘブン』が中にしがみつく魂の僕へ届くからそれ、感じ様はとても甘酸っぱいもの、『おしまいのヘブン』を通してしかモノを感じることができない焦りのあるけれど。

僕が抱きしめる僕の体は他人の情熱だから、それを感じる僕の僕が体のありかの不思議にそれは心の中、憂鬱だよ、しょせんは主観。

『変身の日』から何度も繰り返してきたオナニーよりも、体を洗うなんて日常が、僕の主観をあやふやな立体に変えていく。

ペットボトルの水を浴びに冷蔵庫の前ま戻ってくるまでの歩みは、そんなあやふやなステップ。フルーツの香りに混ざりきらない体臭がゆらいで、鼻の周りを何度も、何度も。

覚えきれないほどの、リプレイ。

憂鬱の波打つ陰影に不安のよどんで、気がつくと指先を見つめてる。爪の間にこびりついていたフルーツの果肉、何も考えずにそれをなめれば。

開け放した冷蔵庫の中にある暗い色をした壜に、手を口にあてがい指をなめる女が、ハッとした顔で映りこんでいる。それはまるで、今の僕を象徴して壜に貼りつけられたラベルの図版のようだった。

キミに、この壜を送ることができたら、きっと今の僕のあやふやさが一目で伝わったのに。

無人のデパートメントにその術はないのだけれど。

 

14.ふらゆら

裸の僕はエスカレーターを駆け上ること、らったった。

三階に飛びこめば、そこは人口の花園のようにも見える妖花のみだら感じる下着売り場。そんなふうに思うのは、身につけなきゃという決意あるから。妹が黄色いぬいぐるみを、満たすこと同じ記号が集体に投げ入れた決意あるから。

パンツから行こうか、ブラジャーから行こうか。

尋ねる相手なんかいないから僕の勝手、まずはこの重たく肩をひく乳房を処理しようなんて考えてみる僕の必要以上なクールは照れ隠しって誰に?

適当と手に取るほどの無粋もないかと、それなりに迷ってみようと思えど、選ぶ根拠なきありさまは無人のデパートメント、モノに囲まれながらも法則の見出せない不安に、知識は書物の中という天恵の閃いて。

五階はブックフロアへ向かってエスカレーターを、らったった。ぶらぶらと重心ゆさぶる乳房を早く納めなきゃ。

雑誌のコーナー、女の本と言えば思い出すはキミと回し読みしていたあのエロ本、懐かしさから手にとってみる僕のノスタルジー、こんなものが懐かしくなるなんて思いもしなかった日々の詰まっているのだね。キミよ、今もこんな本を見ているかい?

果して、果して。

僕は意外なことを見つけた。

その本の中にある女達は、どいつもこいつも僕が『おしまいのヘブン』。

それはきっと、黄色いぬいぐるみの妹が、他のぬいぐるみと区別つかなかったように、この本の中こそ僕が『おしまいのヘブン』の記号的集体ということ。

フロアに雑誌を広げ、またがるように女達の写真見下ろす僕には、物欲しげに先端の行く先を探し揺れる乳房がある。

僕は腰をエロ本の女達に押し出すのではなく、腰をひいて思いきり高く掲げた。エロ本に頬をすり寄せ、体支えていた腕は股間を押し上げ腰の掲げること助け。

乳房がフロアにひしゃげる感触にフィーリンぶーと。

かもーん?

僕は、僕が所属すべき場所が見つかって、嬉しかったのだと思う。

ひとしきりオナニーにむせいで、僕はエロ本を片手にエスカレーターをらったった。

下着売り場にとっ返し、エロ本の女達が身につけているような飾りの幾重にも華やぎ溢るるコーナーを探した。

これはまるで、かくれんぼみたいじゃないか。

らったった。

はたと気づくは、僕は僕が『おしまいのヘブン』のサイズがわからない。手の平でもたげて見れば小さくはないと。どうしたらいいのかわからずのしばしは戸惑いも、しょせんこの世界に下着を必要としているのは僕ひとり、次々と身につけていけば、イツおーらい。

もしも今、世界が元に戻ったら、僕が元に戻ったら、僕はどうなるのだろう?

この静寂がするりとわっという反響に変わって、僕は下着売り場で次々と試着をしている裸女という呆然に打たれるのか?

イツ ろーんぐ。

僕の魂は、この体から抜け出して、きっと元の体に帰るんだ。キミとの友情があったあの日々に帰れるんだ。

うわーん、と耳鳴りがして。

僕はフリルのたくさんついた下着を身にまとっていることに気がついた。それは花弁のようで、僕が『おしまいのヘブン』を飾り立てる花園のよう。乳房のゆらぎの納まって、膨らみがあらゆる方向から包まれている。僕の呼吸の起伏までも受けとめてくれることを乳房越しに感じることの不思議と奇妙。

安心だった。

『おしまいのヘブン』と僕の距離がぐっと縮まって、それは安堵ですらあること。

戸惑いや、恐怖や、照れや、そんなもろもろの不安が消えていく。

息をすうって、吐く。それは乳房に伝わる。ブラジャーはそれを優しく受けとめて、乳房へ反響を返す。反響は全身に伝わり、最後に股間のプッシーとホールの引き締まるを感じ。

キミ、わかるかい? 僕は全身で呼吸することを体感してるんだ。

僕が『おしまいのヘブン』は、受けとめること感じようを、全身で跳ね返すんだ。

カウンタックがお兄さんを壊したこと、戦車と気持ち交して手の平になごり求めたこと、すべてはこの仕組みがさせたことだったんだ。

呼吸に身をまかせていることが、僕は心地よかった。熱い吐息で、頬と股間を満たせば、気持ちの変わること穏やかなありよう。それは、こんな世界でも生きていこうとしてしまう仕組み。僕の『おしまいのヘブン』は、呼吸を快楽に変えながら生きていく恋の仕組みを持ったマシンみーとパイ。

キミよ、下着ひとつでこんなことを考える僕を、暇だとは笑わないでおくれ。

 

15.鏡面世界のティンク

僕は鏡の前に立つ。

心臓がなった。

『おしまいのヘブン』の心臓だよ。

でも、僕はその心臓の音が、僕の気持ちに応えてくれているように思えた。

だから、鏡に映ったのは、紛れもなく『僕』なんだ。

まず、反射が目に入った。

瞳が、光りを捕まえたから。

その光りは、『僕』を僕に見せる。

知覚する僕は、『僕』の装いを知っているから、驚くことはしないはずだ。

視界の開ける光速のやりとりが隙間へ、僕は『僕』の装いの記憶をまぎれこませる。

首筋にかかるくらいの茶髪が横分け、赤い口紅、黄色いキャミソール、灰色のハイヒール。

光りが去った。

サプ。

「これが、僕・・・」

呟いた。

意味のある言葉を発したのは、何日ぶりだったろう。

鼻歌を口ずさむしか勇気しかなかった僕を、言葉の世界に引き戻したのは、『僕』だった。

ティンク。

妖精の魔法のようだね。

鏡の中の『僕』はうなづいた。

崩れた黄色い果実のシルエット、膨らんだり、凹んでいたり。

たわわに張り詰めた『僕』なんだ。

キミと僕は熱心にグラビアの女達を見つめていたよね?

僕は、僕の中からそんな視線を感じている。

あの女達は、僕達を見ていたんじゃないんだ。

それぞれの鏡の中にいるティンカーベルを見つめていたんだよ。

ほら。

僕は、あのグラビアの女達にますますそっくりだ。

そっくりだ。

気持ちよくなってきた。

なので僕は、傍らに積んだエロ本の山の中にある肢体をひとつずつ真似ていくことにする。

鏡に向かって足を開けば、股間にすえられた果実に似た部品の投影、意志の力をこめて真っ二つに引き裂こう。ドロドロとした果肉のこすれあう様ののぞけて。

僕は。

あっはん。

 

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