OX in free |
最終回 |
ピッキーティンキーモンキー 2 |
作 W.Q
16.おしまいだよ 着飾って食事をするのは、なんて気持ちがよいのだろう。 キミはきっともう、僕のことなど忘れて、コンビニでうまい棒でもかじっているのだろうね。 僕は、デパートは最上階、展望レストランから灰色の雪に埋もれ行く街を見下ろしながらのディナー、メニューはとても大きな『ソーセージ』が一本、お腹いっぱいになるには十分ってな量。 窓辺にふりしきる雪のつぶて、視界をさえぎるほどではなく街の有り様をずっと遠くに見せかけるゆらめき、僕を楽しませておくれ。 デパートメントの一階はもう、灰色の雪に埋まってしまった。往来をスピンしながらも行き交っていた自動車もみんな埋まってしまった。家の屋根のいろとりどりも消えうせた。背の高いマンションも日に日に減っていく。それは僕が流星の日に見た人の消滅と同じで、粉々になって消えてしまうんだ。 風景を逆さまにしたら、地面が雲のように見えることだろう。 見知った風景はすべて消えていく。 そういう不安にかられると僕は、胸元に視線落とすことにしている。 今日の谷間は、シルクの青いドレスに包まれて、乳房の輪郭を滑っていくスロープの引き立てること膨らみの柔らかみ。ソーセージにナイフをはわせれば、衣擦れの音、肌とこすれあうシルクの感触は僕の全身をほのかに温める。 温度にして、1℃。 テーブルを飾る花瓶からの視線が強くなった。 僕を意識しているのだろうと、微笑みを浮かべてやった。 でも、最近はモノに宿った意識もだんだんと遠のいていっているようだ。花瓶に飾った花が枯れていくように、じょじょに命を失ってきているのだろう。 そろそろだ。 時間にして、五百七十二時。 千時間ごとに、どこからか大砲の音が聞こえるんだ。 いっつ あ フュー。 一億七千秒ほど待ったけれど、なにも音はしなかった。 灰色の雪をたくましくかきわけながら生きていた戦車に宿りし人の心も、ついに潰えたんだね。 「ピッキーティンキーモンキー」 視線をひとつ感じなくなるたびに呟く、僕のお祈りの言葉だ。そして席を立てば、まるで何百人も収容するために作られたようなスペースの無駄を抜け、レストランを出る。すると、毎日僕が食事のメニューに飽きないようにと作られたたくさんのレストランを横切り、フロアは南西の角へと向かう。 銀色の尖りはジェット機が先端のそこにあるから。 日に日に高度を下げ、地上を押しつぶそうとしている黄色い雲を引き裂いた伝説の名残。 あの黄色い雲の向こうにある青い空、意識潰えしモノ達よ、その青に届け、 屋上に突き刺さった拍子にあちこち歪んで、あの日の精悍さはもう見えないけれど、『僕』の豊満な乳房と大股を開いた股間で鋭角な機体が先端をつつみこめば、まだ感じるんだ魂の宿り。 瀕死の重傷患者のように、その魂の心音は、一日にほんの数回。 『僕』だけはいつまでも、あの日のまま。 この『おしまいのヘブン』の身体に囚われながら、それを受け入れて、でも僕は僕のままで、『僕』という生の中にいる。 キミのことを思い出せる限り、『僕』は僕だ。 キミに手紙を書こうと思うのだけれど、さっぱり住所がわからなくて連絡もとれずじまいで、ごめん。 例え、『おしまいのヘブン』と呼ばれることになったとしても、キミにだけはわかっていてほしい。 『僕』は僕だ。 銀色のジェット機から離れ、僕はレストランの建ち並ぶを抜け、『ソーセージ』を残したレストランへとひき返す。 らったった。 ひとりぼっちの食事は寂しいな。 温めた『ソーセージ』だけがポツンとのっかっているテーブルを見て、思う。 だから。 テーブルの向かいがわに、キミの姿を思い浮かべることにした。 おーけー? 学生服でいいかい? 少し巻きのはいった髪形、そこそこの身長、ハンサムとは言えないけれど、いつもキョロキョロとしていた瞳、そして、カラオケで馬鹿みたいな大声を張り上げていたその口元。 なんてこったい。 キミは、僕だったんだね。 テーブルから『僕』を気恥ずかしそうに見つめ返している幻影は、まぎれもなくかつての僕だった。 キミの住所がわからないわけだ。 僕は、『おしまいのヘブン』の身体に飛びこんだときから、僕でなくなってしまっていたんだ。 思い出は、全部、ひとりぼっちで毎日を過していた日々の書き換え。 僕が『おしまいのヘブン』なんだと気づいた。僕というナニモノかにノリウツラれた売れないグラビアモデルが生業という女。 あたしの身体に憑依したキミは、僕という心であたしと交わった。 あたしは、日々の稼ぎに魂をすり減らし、いつしかモノのように生きるようになっていてね、キミの記憶に神経が触手を伸ばして理解するあの変身の日、本当に疲れ果てて、カラッポになるまで眠りたいと思っていたのさ。結局、生きながらにモノになっていたあたしは選ばれず、奇跡からも見放されて、粉々になることもなく寝入っていたのでしょう。 あたしは、キミに生きて欲しかった。 世界がカラッポに近づいていく中、キミという命を残しておきたくてね。だから、時々、生きる力を貸してあげたの。キミが『マシンみーとパイ』と呼んだのは、あたしが日々の暮らしの中に染みついた慰め。 慰めだけが人生さ、なんちゃって。 さようなら。 あたしであることに気づいてしまったキミの魂は、モノに宿りし魂と同じように消えていくの。 さようなら。 あたしが代わりに消えてあげるわ。 奇跡の裏をかいて一つの身体に二つの魂、消え入るのは一つ分だけでよいという法則。 かくれんぼはおしまいだよ。 オックス いん フリー。 |
17/18.僕の話を聞いてくれ/エレベーター 「語る相手のいなくなった物語はどこにいくのだろう」 僕は支度をはじめていた。 デパートメントはウェディングプラザ。選ぶことその中に、最も生の紋章感じる意匠施された一着、フォルムをいからせながらも、繊細なレース備えた衣装に呼びかけ、なかなかにいいっしょ? と選択に満足。 「僕が『おしまいのヘブン』と呼んだ彼女の魂が消えうせた後に残されたものは、臓器を詰めこんだ肉のカタチ、『女』という仕組み持つモノ。たったひとりで生きることを望まれたとて、この記号になんの意味があるというのか」 ひとりで着替える、どきどきと不安。高鳴りに胸苦しく、脱ぎ捨てるはまとった服、ブラジャーから解放された乳房の震え落ちること重力の仕業。乳首の萎えて、怯え見て取れるから、指で軽く弾いて呼び覚ますブレイブ。 「かくれんぼが終わって、ただひとり残されたオニはなにをしたらよいのだろう?」 どうしたらよいのだろう? とりあえずとマネキンからはがしたウェディングドレスの量感は僕を戸惑わせる。『おしまいのヘブン』が彼女の手伝いがないとさっぱりわからない。脱がしたのなら着れるだろうと、理不尽な決意に滑らかな腹を打つ。 ドレスには芯が通っていて、僕がその中に納まるのを待っているかのように口を開けているから、誘われるままにジッパーを下げ、気持ちといっしょに踏み入れよう、トゥー。 椅子に上がったほうがよさそうだ。 「デパートメントの窓から見える街の景色は、雲の上にいるのと変わらない。しんしんと降り積もる雪は、いつかここも埋め尽くしてしまうだろう」 全身を埋め尽くしていく白いシルクに絞め付けられて、僕はヒップやバストが納まるものかと心配、自分の豊満を意識することは気恥ずかしさのあって。 うーん、乙女っぽいな。 少女とは呼べない成熟の実る胸元、柔らかく熟れたヒップ。ジッパーを上げることへ取りかかる前に、ゆっくりと具合を確かめるような仕草をして、誤魔化そう。 「帰る家はもうない。『おしまいのヘブン』として僕が目覚めたアパートメントを飛び出してから。僕は妹の魂宿る黄色いぬいぐるみだけを連れて、自宅の前へと舞い戻った。でも、玄関を開ける気になれなくて、見知った隣のお兄さん宿りしカウンタックに身を寄せたのだ。それは、『おしまいのヘブン』の作為であったのだと今は思う」 ジッパーを上げる。思いきり引き上げれば、苦しさのこみ上げて、こいつはナフフィット! みっともなくドレスを突き上げる乳房のカタチがグラップでおえっぷ。 選びなおし。 こいつはいったい誰の作為だ? なんて、いもしない人のせいにしてみたり。 「もし家に帰っていたら、僕は自身の変わりようを感じすぎて、なすすべもなく部屋の中で朽ちていったことだろう。少々、引きこもりがちなところのある僕を、『おしまいのヘブン』は魂が混ざり合う中で知っていたのだ。だから、彼女の知っているやり方、男にすがることで今日を乗り切る生き方へ僕を導いた」 やりなおして、るっきんグッド。椅子に乗って背伸びするようなドレスはやめ。無難にツーピースが実力かと、それを着こなして見せればって気持ちが前進、昔のやり方は捨てて、今の行き方を愛そう。裏地のドレープをかきわけ、ビスチェを装着と乳房を詰めこみ、納得いくまでカタチ整え。 自分のために使う時間を楽しむ優雅。 「僕は僕の装いをしなければならない。『おしまいのヘブン』を演ずるのではなくて、女の肉体を僕として感じ、感じようを振る舞いとして儀式へ上昇させなければならない」 まだ魂を残したモノからの視線がある。おもちゃ売り場から運んできたぬいぐるみの山に向かい、僕は微笑む。先導者としての後ろめたさは消せないけれど、それに埋没する悲観はしない。 「ヤオロズが魂の宿るもろもろにひとつずつ、『ピッキーティンキーモンキ−』という彼女が僕に残した呪文を置いていこう」 妹よ、僕の妹よ、お前の瞳と魂が和らぐまで、僕はお祭り騒ぎのようなこのドレスアップを続けよう。 それが、ピッキーティンキーモンキ−。 「僕には予感がある。下腹部に感じるウゴメキは命の鼓動を伝えてくるから。真実を引きずり出すとしたら、ここより信用できる部位は今の僕にはない。だがそれは、喪失ではないのだ。肉体を通して生を感じるかぎり、それは魂へと記録されていくから。『おしまいのヘブン』が導いてくれた女の肉体の感じ方を通して、僕は新たな記録を綴っていこう」 何度も転びそうになって照れ笑い。なんて邪魔なドレープなんだろうって、ウェディングドレスがスカートのドレープは泥濘。 こんなふうに。 ひとりでも思い出は綴っていけるね、それは感じよう、気持ちへ繋がるセンサーをオープンに備えれば、指と爪の間や手首が動脈の上、耳の後ろ、内股、乳首、乳房覆う肉のたわめき、柔らかなお腹が中線がウェーブ、股間の谷間に密んだ穴や突起、そこから全ての気分を吸いこんでいける。 脳に届けば記憶、子宮に落とせば存在。 なっしんぐ アット おーる。 「そして、僕は行動しなければならない。儀式をとり行うために」 満足に歩けるようになってきたから僕は足元を蹴飛ばして。転がるは丸まった黄色い柄の絨毯、とてもうまく黄色い道を切り開いていくこと、僕がデパートメント中走り回って集めた魂宿りしモノの隙間を。 イエローロードに立ち、僕は大きく両手を天に掲げる。 「この地を埋め尽くすほどにあふれる灰色の雪。このデパートメントを、いや僕を埋め尽くすまで、硫黄のように黄色い雲から降り続けるであろう」 小一時間、僕は手を上げたまま立っていた。主観の時間ではないそれ、辺り占めるモノに宿りし魂という他人と供にある時間の流れ。 視線をハングとは感じない。見ていてくれと誇らしげに言える僕ではないけれど、女として見つめられることへ、新鮮な驚きを感じて微笑を返している。 意味なんてわからない。けれど、僕はそうする。 ピッキーティンキーモンキ−。 銀色のジェット機が心音のコトキレルを感じた。 「僕は行く。この地にただひとつ残された移動手段にすがり、どこまでこの雲と雪が追いかけてくるのか試してやるつもりだ」 彼が屋上に突き刺さっていた場所から、氷が割れるような音が走り出す。ついに、この場所も粉々に崩れはじめたんだ。 天井が崩れ降り注ぐは、屋上にあった箱庭遊園地がパーツ。動物のはいつくばるを模した傲慢な無表情思わせる遊具機械が、魂宿りしモノ達を押し潰していく。 僕はイエローロードを駈け抜ける。 ガレキと一緒に、あの灰色の雪が舞いこんできて、僕の気管を塞ごうと集まってきた。足を緩めると、その場に立ち尽くしてしまいそうで。僕は必死に走った。ドレスが足元にからまって、とてもまだるっこしいスピード。ドレスのビスチェから飛び出しそうになる乳房をしっかりと両手に抱えると、僕は走る速度をあげる。 らったった、らったった、らったった。 ハイヒールのカカトが折れた無様なステップ。 ただひとつ残された移動手段を目指すしかない。 「エレベーターよ、僕を運んでいけ。僕はもうオニではない」 イエローロードの先はエレベーター、僕が儀式のために用意した箱舟。 背中で、これまで聞いたことのないような轟音がして振り返れば、天井を食い破っての落下は、ペンキの剥げて、半ば粉末と貸しつつある観覧車。無軌道に回転する量感が迫力の螺旋を描きながら、デパートメントの建物を下階まで打ち抜いていく。 僕の住んでいる街をカラッポに変えた力が、追ってきたんだ。 足が一瞬、無力に砕けそうになって、僕は閃くこと、そいつはまた身体を捨てて、あの晩のように魂だけで抜け出せばよいということ。そうすれば、天にまた昇っていける、お父さんやお母さんに追いついていけるかもなんてフォーチューン。 閃きとは裏腹に、僕は、この女の体に魂をしがみつかせた。 そして、衝撃で扉を開いたエレベーターへ我が身を滑りこませる。 「ひときわ高鳴る股間からの突き上げに歓喜しながら、僕は行く」 エレベーターの奥へ叩きつけるように身体、ずり落ちて尻餅、ぐちゃぐちゃに潰れたドレープのドレス。 カラッポの世界よ、男がひとり女にノリウツって生きようとすることくらい、許せないというのか? ヤオロズの魂にグッバイ。 エレベーターは回転しながら落下していく。 かつて僕の街であった灰色の雪が堆積を抜けて。 股間の穴に飛びこんでくる重力が身体を抜け、口からほとばしる。 悪くないね。 カラッポにバイバイ。 |
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20011027 W・Q |
前作「ピッキーティンキーモンキー」は、みんみんちゃんの「魔女外伝」の自由投稿の部にございます。 |
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